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第1話 初恋

Auteur: スナオ
last update Date de publication: 2025-08-10 08:58:34

 けいくんが帰ったあと、桜夜はしばらくぼんやりとしていた。その姿がリオには、泣くのを我慢しているように見えた。だから一歩踏み込んだ。

「あの、先程の方はどなたなんですか……?」

「え? 僕のかわいいかわいい弟分のひとりだよ」

「彼の、お姉様というのは……」

「あー、それ聞いちゃう?」

 桜夜はくはっと笑う。そしてようやくリオを見る。

「聞いて楽しい話じゃないぞ。僕の……昔の女の話だ」

 いたずらっぽく桜夜は嗤う。嗤おうとする。自分自身を嘲るように。

 リオに驚きはなかった。いや、まったくなかったといえば嘘になる。ただ彼の公私ともに女性慣れした仕草から、そういう人がいたのだろうとはぼんやり思っていた。

 今彼女が気がかりなのは桜夜の、静かだがどこか取り乱したような様子だ。彼が前に紹介してくれた弟分ーー司ーーとは、同じ人を悼む仲間といった感じで、こんなに取り乱しはしなかった。だからリオは行動する。……後悔しないために。桜夜は3人がけのソファーの真ん中で呆けていた。リオはその隣に座り、彼の手に自身の手を重ねた。

「どうか、話してくれませんか? わたくし、そんなに弱く、無いですよ」

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